リアルとバーチャルの融合における盲点

AI/Digital Signage/IoT /

楽天技術研究所のバーチャルスタイリングラボは、従来の対面販売(ファッションアドバイス)の持つ課題を解決するために実施された実験的な試みである。店頭に出向かなければならない地理的な制約、試せるアイテム数の限界という物理的制約、対面での接客がもたらす緊張感という心理的な障壁を、デジタルサイネージを利用したリモート対応・バーチャルフィッティング・ロボアドバイザー風の接客という3つの要素で克服した。ファッション誌「FUDGE」の10周年記念イベントでブースとして2日間の展示を行い、ロボット風の音声でアドバイザー(販売員)が遠隔からブース内の来場者にコーディネートを提案した。

この事例では、リアルとバーチャルの融合の「仕方」が重要なポイントになっている。バーチャルフィッティングの画像処理技術だけで見ると、服を2次元的に貼り付けているだけなので、最新のAR技術を用いた、3DCGでリアルタイミングマッピングするようなものと比較すれば見劣りする。しかし、重要なことはそこではないのだ。遠隔地にいるファッションアドバイザーが音声でアドバイスをするのだが、その声がロボットボイス風に加工されている。この加工によって「生っぽさ」が消えて、心理的な親近感が湧いてくるのだ。当初はロボットボイスは予定していなかったようだが、共同でプロジェクトを行った筑波大学の学生らの意見で、こうした音声処理を行った。

これをこれまでのテレビ電話のように、本物の人間が映像や音声で接客を行った場合をイメージするとわかると思うのだが、心理的に近すぎて、リアルすぎて、結局リアル店舗と同じように買わなくちゃ悪いという心理が働いてしまう。そのためバーチャルフィッティング自体を遠ざけてしまう。これはゲームやネット世代だけの特性ではおそらく無いだろう。店員と会話するのが鬱陶しいという部分もあると思うが、いい意味でコミュニケーションが薄まってくれるので、とても気軽になるのではないだろうか。店員の側(この場合はスタイリスト)の「普通の対面だとその場が温まるまで時間がかかる」という部分の対策として、リアリティを追う方向だけではないのだ、ということを教えてくれているのではないだろうか。

ビジネス的には、こうしたバーチャルフィッテングは、服を買うという行為がすべて自宅でできてしまう可能性を秘めている。そしてオンラインビジネスの楽天とすれば、当然ながらその可能性を狙うわけである。

ZOZOSUITのようなものでサイズデータを登録して、遠隔地にいるスタイリストと相談しながら服を選んで買うことができる。今後コストが見合うようになれば、リアルタイムCGの3Dマッピングをすればいい。スタイリストは今のコールセンターのオペレーターのように、どこか遠隔地やその人の自宅にいるのかもしれない。スタイリストは特定ファッションブランドの専属ではなく、複数のブランド、それも服だけではなく、バッグやコスメまでも含めて提案するだろう。

なおバーチャルスタイリングラボは、2018年のデジタルサイネージアワードのインタラクティブ部門で入賞している。