ITとは関係のなさそうな商いにこそ「IoT」は効く

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情報産業ではGAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)と呼ばれるビッグプレイヤーによる世界的な寡占化が進んでおり、さまざまな情報が彼らによって占有されているように思える。しかし、わたしたちが商売を行ううえで本当に役立つ情報は、そのようなビッグプレイヤーが見向きもしないような、とても身近なローカルなところにもある。そして、IoTはそのようなビッグプレイヤーではない私たちでもローカルなデータを取得して活用することを実現し、商いを助けてくれるものである。

トイレの利用回数データは「宝の山」

このような事例がある。

オフィスビルや商業施設のトイレ用品のメンテナンスを行っているA社では、消耗品の交換作業を効率化するため、センサーを設置してトイレの利用状況のデータを取りはじめた。これまでは、トイレの利用状況とは関係なく、どのトイレであろうともルーティンとして月1回、年間12回は訪問してメンテナンスを行っていた。しかし、実際にはそこまで頻繁にはメンテナンスを行わなくても十分に清潔に保てるところがほとんどだったのだ。そこで、センサーによって利用状況を定量化して個別に把握し、メンテナンス回数の最適化を検討したのだ。想定よりも利用頻度が少なく、もし年間10回のメンテナンスでも十分にまわることがわかれば、約20%の作業工数の削減になる。作業時間とコストが比例する労働集約型産業において、作業工数の削減はダイレクトに経費削減となって利益に直結するため、とても大きな価値がある。

このデータを自分たちで活用するだけではなく、トイレのロケーションオーナーの商業施設にも提供したところ、「これは宝の山だ!」と喜ばれたそうだ。商業施設の運営事業者にも、トイレの利用状況を細かく把握することで清掃スケジュールの効率化とコスト削減を実現できるため、まったく同じニーズがあったのである。さらに商業施設側を喜ばせたのが、その施設にトイレがいくつ必要なのかをデータで定量的に示した点だ。利用状況を詳しく調べたところ、トイレの数が必要以上に多いことが判明したため、数を減らして個室のスペースを拡げるリニューアルを進めており、顧客満足の向上につなげている。

A社は低コストでトイレ用品メンテナンスできることを強みにして事業を展開しており、センサーの設置は、それを強化することを目的に企画されたことだ。すると、センサーはその目的を達成させただけではなく、データをもとにしてロケーションオーナーに低コストでトイレ清掃を実現する運用サポートを提供したり、ビルや施設における最適なトイレの数をデータをもとに提案したりすることで、A社に新たな事業機会を提供するとの想定外の効果をあげたのである。

「いま、ここで」を絞り込むことで生まれる価値

もっと単純な例もある。

雨が降ってくると、コンビニなどの店頭ではすぐさまビニール傘が目立つ場所に並べる。出先で突然の雨に降られたときはとても助かる。なぜあれほどまで迅速に店舗が傘を並べるかというと、ビニール傘は利益率がとても高いからだそうだ。突然の雨は、利益率の高い商品が片っ端から売れていく、店としては絶好のチャンスなのである。

外の様子がわかりやすいコンビニであれば、雨の降り始めると店員がすぐに気が付くため、この機会を逃すまいと傘を並べるのは比較的簡単だ。しかし、大型の商業施設になると店員は天気の変化に気付きにくく、傘を出すのが遅れてしまうことになる。そのような店にとっては、一目瞭然にすぎない「店の前で雨が降り始めた」、ただそれだけの情報に店内に伝えることに大きな価値がある。もちろん、スマートフォンやインターネットにつなげたパソコンで天気情報を得ることもできる。しかし、それらはビニール傘を売るには、情報として粗すぎる。「この店の前で」「いま」と絞り込まないと商売には使えない。逆に言えば、ドがつくほどにローカルで新鮮な情報があれば、それだけで売上と利益を上げられることになる。

これらの2つの事例は、とても身近な、当たり前すぎることをデータとして集めて定量化し、可視化しただけである。しかし、それだけで、みなさんの商売が改善し、さらには想定外だった新しい強みや事業機会の獲得につながっている。

IoTとの言葉だけだと、IT屋がバズワードを並べ、大企業やベンチャーが試験的にどこかで何かをやっている縁遠いもの、そのように見えるかもしれない。しかし、これらが役に立つ場面は「まだトイレはきれいだから掃除にいかなくてもいいですよ」「いますぐに傘を並べれば、間違いなく売れますよ」と耳打ちする、これまでITとはまるで関係のなかったところにこそある。