AIを用いた技術継承その問題点と解決策(後編)

建築・製造業でのAIを用いた技術継承

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製造業や建設業、農業などの一次・二次産業では、熟練作業者の技術を次の世代に継承していくことが急務になっている。しかし、人手不足や技術継承には時間がかかることから、思うようには進んでいない。そこで最近は、AIテクノロジーを活用した取り組みが行われるようになってきた。将来的に人手不足による技術継承の問題は解消され、短期間で熟練作業者と同様の技術を身に付けたり、継承したデータを基に精度の高い製品を自動で作り出したりすることができるようになるかもしれない。

「匠」の技術をデータ化する

大工の世界では、師匠に弟子入りして、見習いから始め、技術を習うのではなく盗んで成長するという封建的な徒弟制度が長らく続いてきた。頑固で口数の少ない大工の棟梁というのは職人の美学のように讃えられることもあるが、技術が言語化されないことで暗黙知・経験則のままでとどまってしまい、技術継承を困難にしている点では農業と同じだ。

実際に建設現場では、農業同様、棟梁の高齢化という問題が起きている。高齢の棟梁が若い弟子ではなく、短期雇用の若者や外国人労働者を引き連れて現場に現れることもよく見る風景になっている。頭数を揃えるだけならそれでもいいが、建築のエキスパートとして大工の技術を継承するという意味では非常に危機的な状況といえる。

このことは典型的な職人の世界に限ったことではなく、製造業の企業に所属する職人的技術者にも同じような傾向が見られる。

センサーとAIによる解析

そこで、センサーとAIを使って棟梁の持つ「匠の技」を解析して継承していこう、という発想が出てくる。

しかし、建築に使われる部材というのは木材から鉄筋、基礎に使われるコンクリートまで多岐にわたり、部材数も非常に多く、木材なら木の種類や用途によっても異なってくる。現場ごとの部材数も多ければ、現場の数も多くあり、それぞれの規模は小さい。したがって、高額な機器の導入は困難である。

また、工場のサンプリング検査のように一本抜き出して壊れるまで叩いてみて強度を確認するようなことは、規模の小さな現場ではできず、おのずとできることが限られてしまう。

センサーによるデータ収集の難しさ

コンクリートを例にとると、すぐに固まってしまう性質のものなので、工場から完成品を運んでくるわけにはいかない。現場で原材料を混ぜて作るわけだから、職人的な経験知が非常に大きくものを言います。原材料は砂利と水など数点に限られており、作業プロセスも単純だ。それでも、わずかな水分量や含まれる砂利の粒の大きさの違いによって品質にばらつきができてしまうそうだ。

コンクリートを作る工程をデータ化することは簡単ではない。プロ野球のボールの縫い目まで見えるような高精度カメラで砂利の大きさを測定したらどうだろう、と思ったら、機器があまりに高価でコストに見合わない。撹拌するミキサーの中にセンサーを入れて内部の水分量や温度を計測したらどうだろう、と思ったら、センサーについたコードが引っ掛かってミキサーを止めてしまった。このように、センサーによるデータ収集の段階で、実現できずに挫折してしまう場合が多いのではないかと思われる。

職人の体中にセンサーを取付けて一挙手一投足をつぶさに計測しようというアイディアもあるようだが、まるごとコピーしたところで職人の技が盗めるわけではない。職人にしか気づかない小さな情報から感覚的に動きを変えるのが職人技の妙味であることは自明だろう。

間接的なデータを分析・解析するのがAI的なアプローチ

むしろ、そうした直接的なデータを取得するのではなく、間接的なデータから分析・解析を行っていくのがAI的なアプローチの特徴になる。

熟練した職人的作業者は、コンクリートを撹拌しているときに水分量や砂利の粒の大きさを見ていなくても、感覚的に異常を察知する。例えば水が多いと、重さの影響でモーターが回り始めるときに高い音が出たり、逆に水が少ないと軽い音になったりすることを経験的に知っている。そこで、ミキサーの中の水分量データを取るのではなく、そこから発せられる音をデータとして取り込んで、その周波数をフーリエ解析するというアプローチが考えられる。

コンクリートの品質に影響するデータとして、原材料の量や水分量や粘度が直接的なデータとするならば、製造する過程で生じる音は間接的なデータと言える。

この方法では、できた生コンクリートの良し悪しをフィードバックして、このときは良い、このときは不良ということをAIに教えていくことで、AIは「撹拌する音とできあがったものの間に相関性」を見つけることが可能になる。

砂利の粒の大きさも同様で、物理的な計測ではなく、ミキサーに落とすときに細かい砂利が多いときと大きい砂利が多いときで違った音が聞こえるのであれば、音と生コンクリートの良し悪しの相関を確認していけばいい。

回転するミキサー内にデータ計測用のセンサーを入れることはできないが、モーターやミキサーから出る音や振動を計測するだけならば、ミキサーの回転していない部分に安価なマイクや振動計を取り付けるだけで済む。屋外の現場でもマイクや振動計ならば問題なく使用可能だ。建設現場を例にとってお話したが、工場の生産管理にも同じことが言えるだろう。

直接的に品質に関わるデータを厳密に管理して、理想的な環境で作業が行えるのならば、なにもAIを用いるまでもない。直接的なデータを取得できなくても、間接的なデータや職人が判断に用いる一見無関係なデータを取得する。これらのデータは間接的なだけに1件ごとにみれば誤りが含まれるかもしれないが、大量のデータを経験知として積み重ねてAIで分析・解析していくことで、精度の高い判断をできるようにするというのがAI的なアプローチだ。まさに職人の技を継承するにふさわしい技術といえるのではないだろうか。

ソフトとハードの両面から技術継承の問題を解決する

このようなAI的なアプローチとともに、データを得るための最適なIoTデバイスを選択できるハードウェアの知識が不可欠となる。ものの動きや変化を計測するセンサー、センサーからの信号を処理するデバイス。そして、センサーから集められたデータを、クラウドに上げてAIに解析させるためのゲートウェイ……ソフトウェアの技術だけでなく、これらハードウェアの技術もなければIoTとAIによる技術継承は成功しないとも言える。

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